2009年06月15日

ST1.1…新作映画を1.1倍楽しむ (2) 設定編

ST1.1第2回は、映画の基礎的な設定をいくつか取り上げたいと思います。長文になってしまいました。

これまでのネタバレ記事
脚本家Q&A
DOSSIERSの紹介
ST1.1 (1) イースターエッグ編

以下ネタバレです。

★もう一つの現実
ブリッジでカークが「ネロが未来を知っているなら、裏を読んで…」と提案しますが、スポックは「過去に影響している時点で歴史は変わっている」と説明します。わざわざ時間を割いているこのシーンこそ、ある意味では新作映画最大のポイントですね。
この世界は最初にネロがケルヴィンに干渉した時点で、ウフーラ言うところの「もう一つの現実 (alternative reality)」になっています。
ST11日本版ポスター
日本版ポスターの瞬間こそ…

従来のスタートレックでは、多少のブレこそあれ、基本的に歴史は一本道でした。だからこそ22世紀から24世紀まで、もちろんその前後も含め、「週刊スタートレック」にもあったような一つの年表で描けたわけです。未来や過去をいじっても、結局はほぼ元通り。いわゆる「なかったこと」になるのがお決まりでした。
他の作品で言うと「バック・トゥ・ザ・フューチャー」式、だからこそ歴史変更のはかなさ、タイムパラドックスの面白さがあるわけです。

とはいえ老スポックの存在自体や、彼の記憶 (カークの父ジョージが「こちら」では存命だということ) で示唆されているように、従来のタイムラインが消滅したわけでもありません。両方「正史」です。
従来の設定ならば24世紀の視点から見た場合、ネロやスポックが過去に飛んだ瞬間に何もかも崩壊する描写にもなりえたわけです (例えば映画「ファースト・コンタクト」の冒頭のように)。
多次元宇宙というか量子論的宇宙というか、とにかく分岐した世界として両方存在しています。確か「ドラゴンボール (Z)」の未来関係は、この理論でしたね。ですからほとんどの矛盾点は全く関係なし、でも従来のは従来として尊重。実に思い切った、かつ上手いやり方ではあります。
分岐する前のはずのケルヴィンも、随分と従来とは異なっている気もしないではないですが、その辺は目をつぶるとして。

継続する平行世界ということで言えば、TOS「イオン嵐の恐怖」を発端としてDS9やENTで描かれた、「鏡像世界」をイメージするとわかりやすいかもしれません。
でも、年表を始めとする設定表記はめんどくさいことになりますね…。老スポックが "Spock Prime" と表記されていることにちなんで従来のを prime universe (または timeline など)、新しい方はそのまま alternative reality などと呼んでいるところもあるようですが、はてさて。
PrimeのPとくれば、P波・S波っていうのがありましたね。P宇宙とS宇宙…うーむ。

★タイムトラベル
事の発端は、主に老スポックの精神融合のシーンで説明されています。前篇コミック "Countdown" でもある程度は描かれていますが、簡単にまとめると

超新星爆発の影響を防ぐため、スポックは赤色物質の準備を行う

しかし間に合わず、ロミュラスが消滅

超新星はまだ他の星に影響を及ぼすため、ブラックホールを作って消す

だがネロに襲われ、2隻ともそのブラックホールへ

飲み込まれたのはほぼ同時だが、出口では25年の差が生じた

となります。
映画を観るまでは、ネロもしくはスポックは自由にタイムトラベルする能力があって、しかも狙われたのはカークかと思っていたんですが、実際は事故であり、ネロの船とケルヴィンが鉢合わせしたことも単なる偶然でした。
だからロミュランはロバウ船長にスポックのことを尋ね、過去だとわかった瞬間にネロは逆上して武器を振り下ろしたんですね。

★ビギニング
今回の映画は、よく日本の説明でも俗に言う「ビギニング」ものと解説されています。
実際、TOSでは第一話であってもクルーの出会いのようなシーンはありません。
設定の差異こそあれ、最初からいつもの状態という感じです。
これはTNG以降とは大きく異なる点であり、だからこそ今回のような映画が作れたとも言えます。

もちろん前述のようにこれは別の歴史を歩んでいますから、従来の歴史でどのような出会いをしたかは別問題ではあります。でも映画の後にTOSでキャラクターのやり取りを観ても違和感がなく、何だか微笑ましく感じます。

そもそも製作第1話「歪んだ楽園」は、公開されたのが随分と後年であり (映像の大部分は「タロス星の幻星人」に組み入れられました)、放送第1話は製作第6話の「惑星M113の吸血獣」でした。日本放送第1話「光るめだま」の冒頭には、最初ということを表す日誌が入っていますが、これは吹き替え独自の処置です。

放送局に売り込むための最初のエピソードをパイロット版と言い、「歪んだ楽園」は却下され、セカンドパイロット「光るめだま」でGoサインが出ました。
よってこの2話は設定が異なっており、「歪んだ〜」に出ているレギュラークルーはスポックだけです。
この時の船長こそ、新作映画で極めて重要な描かれ方をしているクリストファー・パイク大佐でした。
後に定められた時代設定では、この時はパイク船長時代ということで、後のエピソードより古い扱いになっています。

「光る〜」でカーク、スコット、スールーが登場。製作第3話「謎の球体」でやっとマッコイとウフーラが出て、勢揃いとなります。
なおチェコフは第2シーズンで加えられたキャラクターでした。

★エンタープライズが地上で建造
予告編第一弾 (日本公式サイトでは「特報2」) からして、映画の製作中とエンタープライズの建造中を引っかけた内容でした。
もちろん本編にはなく専用に作られた映像だったわけですが、「ダミー」などではなく次の予告編でも船が地上建造されていることが明らかになりました。

従来では、宇宙で船を造るのが当たり前のように描かれていました (VOY「過去に仕掛けられた罪」のユートピア・プラニシア造船所、ENT「帰還なき旅」のNX-02など)。
また、エンタープライズは継続的な大気圏飛行はできないとされてきました (TOS「宇宙暦元年7・21」)。

ただしこの時も大気圏上層には入っており、その後脱出しています。
TOSより前の時代に当たるENT「時間冷戦(後編)」でも、NX-01が大気圏に自ら入って攻撃しています。
ほかにTNG「無限のパラレル・ワールド」で映った小さいコンピューター上の画面では、ユートピア・プラニシア造船所の地上施設で明らかにギャラクシー級が建造されていました。

脚本家のロベルト・オーチーいわく、地上から飛び立つには問題があるとか、部品別に分けて宇宙で組み立てた…といった説は「エンタープライズはヤワなヨットじゃない」と一蹴した上で、ワープに入る=空間を曲げることは重力にさらされるのと同義であり、その上エンタープライズの各デッキには人工重力で1Gが作られていることは周知の事実であるため、適切にワープナセルのバランスを取るには (わざわざ人工重力を作る必要のない) 地上で造る方こそ理にかなっている、という独自の理論でもって説明しています。

★スキンヘッド
ネロたちロミュランがスキンヘッド&タトゥー入りになっているのは、追悼のためという設定が "Countdown" で説明されています。
今回の場合、ヴァルカン人との無意味な混同を避けるための処置という気もしますね。

★ブリッジ
ブリッジのスクリーンが窓+ディスプレイ兼用になっていることは脚本家Q&Aで触れたとおりですが (映像ではパイクがネロの船に行くことになる辺りなどで、窓と確認できます)、そのほかにも従来では存在していなかったブリッジ直通の入り口が、スクリーン側から見て左側に設けられました。
今まではターボリフト (縦横に移動する高速エレベーター) 経由でしか入れませんでした。

そういえば最初にブリッジが出てくるシーン (カークとマッコイがエンタープライズに到着した後) では、スポックがターボリフトに入る前からブリッジに来るまで、カットなしの一続きの映像になっていましたね。お見事。

★船の向き
これまでのスタートレックでは、映像内で宇宙艦の「上下」を正しく描くことが基本方針でした。
初めて出くわす船でもお互い上下がそろっていますし、DS9で描かれた未曾有の大艦隊でも同じことが言えます。もちろん戦闘や漂流状態など、例外も数多くありますが。

新作映画では船を舐め回すような映像が多用されており、本当にクルクル回るといった感じで、これまでと異なった印象を出すことに成功しています。
白飛びや映り込み、独特のブレも特徴的でしたね。特にラスト近くでの、ネロの船のワープ後!

★長寿
ヴァルカン人は地球人に比べて寿命が長いので、スポックは129年後でも普通に生きているということになります。従来のシリーズでもこの設定を生かして、TNGにサレクやスポック「大使」が俳優そのままに登場しました。
スポックが映像に出てくるのは、その「潜入! ロミュラン帝国」以来18年ぶりとなります。それは映画ST6とのタイアップの意味もあったので、劇場公開と同時期に放送されました。
その時からスポックはロミュランとヴァルカンの再統合を目指していたので、ロミュラス (ロミュランの母星。映画の字幕ではロミュランのまま) を救おうとしたのは自然な流れですね。でもロミュラスを失い、今度はヴァルカンを失い……何ともはや。

なお129年後の2387年は、これまでで最も未来だった「ネメシス」の8年後に当たります。

ほかにヴァルカン人の血液は、地球人の鉄に対して銅が使われているという設定のため、緑色です。
映画では少年スポックの唇の血や、マッコイの罵りでうかがい知ることができます。
そういえばドリル上でスールーに刺されたロミュランの血も、緑でしたね。


前回で扱わなかった小ネタを少し。

★映画の一番最初に聞こえる断続的な音は、TOSでエンタープライズのブリッジに流れている音です。
今作でもブリッジのシーンで使われています。そしてエンドクレジットのラスト、映画の一番最後に聞こえる音でもあります。
もう一つ従来では連続的な音も併用されていました。例えばTOSのDVDでは、全体のメニュー画面が連続的、個々のエピソードメニューが断続的な方になっています。
ほかにも転送音、装置の操作音、コミュニケーターの開閉音なども踏襲されています。
従来の効果音を集めたCDは発売されており、実製品は品切れのようですが iTunes Store では個別に購入することも可能です。

★ネロの船に向かう時のケルヴィンのインパルスエンジンや、エンタープライズがタイタンの大気中で行ったスラスター噴射。今まで描写がないことはないですが、省略されがちな映像でした。

★クレジットのほぼ最後で紹介される劇中曲。最初の "Sabotage" は、ビースティ・ボーイズの歌です。
少年カークが車を走らせるシーンで、「NOKIA」(提携企業の一つ) 端末を操作して流していました。
映画のサントラには入っていませんが、アルバム "Solid Gold Hits" に収録されているほか、iTunes Store では150円で購入できます。

ほかに "Josh Greenstein" と "Awasoruk Jam" という曲は、作・演奏が Cyrano Jones となっています。
TOS「新種クアドトリティケール」に出てきた商人、シラノ・ジョーンズですね。
Josh Greenstein はパラマウントのスタッフの名前。
そして Awasoruk を逆から綴ると、Kurosawa。世界のクロサワ、黒澤明監督のオマージュという説がありますが…?
この記事へのコメント
初めまして。

スタートレックに関してとても知りたいと思っていることがあります。
ある人から、未来社会にはお金が存在しない、だからSFにはお金が出てこない、と聞きました。それで、どのSFだろうと思っていたのですが、また、ある人からスタートレックがそういう世界だと聞いた、と聞きました。「人はお金のために働くのではなく、人のためになることをする喜びのために働く」のだそうです。スタートレックにそういうことを描写したところがあるのでしょうか? 
いろいろ検索したりして調べているのですが、見つかりません。もしかして、あなたなら知っているかもと思ってメールします。
もしかしたらどこかに書いていたりするのかもしれませんね。すみませんが、知っていたら教えてもらえると助かります。
Posted by 平井くに子 at 2011年12月02日 23:30
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